電磁波防護服基本性能試験

耐久試験

電磁波防護製品開発にあたり、以下のような素材性能試験・実機試験・耐久試験を繰り返し実施しております。

1. 防護服衣料材の耐環境性の評価

防護服衣料材の耐環境性を評価するため、防護服から切り出した試験片の電磁遮蔽率を耐環境性試験(40℃、95%の大気中に280時間暴露)の前後で測定した。電磁遮蔽率の測定は、KEC法による近傍電界遮蔽率測定(試験片は200mm×200mmの正方形)およびアドバンテスト(TEM)法による遠方界電磁波遮蔽率測定(試験片は150mm×50mmの長方形)の2種類を実施した。

KEC法を用いた近傍電界遮蔽率の測定では、図1に示すように暴露前後における遮蔽率の差は最大1.82dBであり、常温・常湿に置かれた対照群の遮蔽率のばらつきが最大2.88dBであることから、暴露前後における試料の近傍電界遮蔽率の差は顕著とはいえず、シールド劣化は認められない。また、アドバンテスト(TEM)法を用いた遠方界電磁波遮蔽率の測定では、図2に示すとおり暴露前後における遮蔽率の差は最大1.06dBであり、常温・常湿に置かれた対照群の遮蔽率のばらつきが最大2.14dBであることから、暴露前後における試料の遠方界電磁波遮蔽率の差は顕著とはいえず、シールド劣化は認められない。

▲図1 防護服衣料材の暴露前後における近傍電界遮蔽率(KEC法)

▲図2 防護服衣料材の暴露前後における遠方界電磁波遮蔽率(アドバンテスト(TEM)法)

2.防護服の電磁波暴露における温度上昇性の評価

防護服の電磁波暴露における温度上昇性を評価するため、以下の試験を行った。物理ファントムに、綿素材の半袖アンダーシャツを着用させ、その上に防護服を着用させる。胸と両脇の位置に銅-コンスタンタン熱電対を貼付し、その上に綿素材の長袖ポロシャツを着せる(図3)。この装置を電波全無響室内に設置し、水平距離1m隔てた位置に設置されたバイログアンテナより、1GHzの正弦波を10分間照射したときの温度上昇を観察する。放射波の電界強度は、物理ファントム前面で30V/mとし、水平と垂直の両偏波を用いた。防護服には、ボタン無し袖付のものとボタン有り袖無のものの2種類を用いた。

図4、5に示すとおり、胸、両脇のいずれの位置においても顕著な温度変化は認められなかった。

▲図3 温度上昇試験用の物理ファントム

▲図4 電磁波(水平偏波)照射中の温度変化

▲図5 電磁波(垂直偏波)照射中の温度変化

3.防護服の着用状態における電磁波遮蔽性能の評価

防護服の着用状態における電磁波遮蔽性能を評価するために、以下の試験を行った。物理ファントムの鎖骨中央から120mm下方、肋骨中心の90mm体内側に、ループ径6mmの1ターンコイルを設置する。物理ファントム前面から水平距離3m隔てた点に設置されたバイログアンテナより20MHz~1500MHzの正弦波を照射し、ループコイルに誘起される電圧をネットワークアナライザで観測する。放射波には水平と垂直の両偏波を用い、ループ面の向きは放射波の偏波方向に垂直とした。8種類の防護服(表1)を着用させたときのループコイルに誘起される電圧を測定し、着用前後の電圧比から遮蔽効果を求める。また、各々の防護服の直流における表面低効率を、防護服がペースメーカのジェネレーター部分を覆う位置の表面で測定した。

図6、7に示すように、ボタン無し袖付の防護服が最も大きな遮蔽効果を示し、最大28dBであった。ボタン有り袖無の防護服の中では、首周りの狭いものが僅かに遮蔽効果が大きかった。2年以上使用された防護服の遮蔽効果はほぼ0であった。また、表1をみると、遮蔽効果と表面低効率には負の相関性が認められ、最も遮蔽効果の小さい防護服の表面低効率は、100MΩ・m以上と最も大きかった。

▼表1 電磁波遮蔽性能の評価に用いた防護服の種類と防護服の表面低効率(直流)

番号ボタン位置首回り寸法使用期間使用状態洗剤種類洗濯回数表面抵抗率(Ω・m)
2 両脇 標準 未使用 - - 3.0×10
3 ボタン無 標準 未使用 - - 2.0×10
4 両脇 標準 未使用 - - 4.0×10
6 両脇 広い 未使用 - - 3.0×10
Used1 正面 標準 28ヶ月 毎日着用 モノゲン月2回 1.0×105
Used2 正面 標準 37ヶ月 毎日着用 モノゲン月2回 2.0×104
Used3 正面 標準 43ヶ月 隔日着用 不明 8.0×103
Used4 正面 標準 25ヶ月 毎日着用 石鹸月1回 1.0×108

▲図6 防護服の電磁波遮蔽効果(水平偏波)

▲図7 防護服の電磁波遮蔽効果(垂直偏波)

4.防護服の着用状態におけるペースメーカ誤動作防止効果の評価

防護服の着用状態におけるペースメーカ誤動作防止効果を評価するために、以下の試験を行った。物理ファントムから水平距離50cm隔てた位置にバイログアンテナを設置し、妨害波として移動体無線機器等を考慮し、800MHzの搬送波を60Hzでパルス変調した信号を、増幅器を経由して供給する。バイログアンテナの高さはGeneratorと同じ高さとし、偏波面は、数値解析から防護服の遮蔽性能が小さいと考えられる水平偏波を用いた。また、供給電力はPMが非同期パルスを発生させ得る最小電力とした。PMが擬似心拍信号を感知しながら刺激パルスを抑制している状態で、物理ファントムに9種類の防護服(表2)を着用させた後、妨害波を照射する。ペースメーカの動作を20秒以上観察し、この期間内にパルスの発生が1パルスでも認められ、しかも再現性があった場合に干渉を受けたと判定する。

表2に示すとおり、形状に係り無く未使用のものと1年(12ヶ月)使用されたものには、非同期(不要)パルスが発生せず誤動作防止効果が認められたが、2年以上(25ヶ月)使用されたものには認められなかった。

▼表2 評価に用いた防護服の種類とペースメーカ誤動作防止効果

番号ボタン位置首回り寸法使用期間使用状態洗剤種類洗濯回数非同期(不要)パルス
2 両脇 標準 未使用 - -
3 ボタン無 標準 未使用 - -
4 両脇 標準 未使用 - -
6 両脇 広い 未使用 - -
Used1 正面 標準 28ヶ月 毎日着用 モノゲン月2回 発生
Used2 正面 標準 37ヶ月 毎日着用 モノゲン月2回 発生
Used3 正面 標準 43ヶ月 隔日着用 不明 発生
Used4 正面 標準 25ヶ月 毎日着用 石鹸月1回 発生
Used5 正面 標準 12ヶ月 週に2~4日 アタック月1回

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